しろごま油を大勢に知ってもらおう

おせち料理日本そのもののように思えたものだ。
隣合わせた1世の老人と話をしたのだ、5つのとき、両親に連れられてカリフォルニアに来て、大戦後ニューヨークにできた日本料理店で働いている、家族もなく、ほかに日本人社会とのつき合いもない、1年中でこのレセプションだけ楽しみで、毎年来ている、親しい顔もだんだん減っていく、などとボソボソと、それでも楽しそうに話した。 おせち料理というものが最大限に役割を果たしているのを見た気がしたものだ。
肝心の日本では、おせちへの感激はなくなってしまったようだ。 もともとごちそうだったはずのお正月料理、平素の食生活向上したために、かえって質素なものに感じられるようになってしまったからだ。

劇作家で小説家の獅子文6さんは、亡くなる少し前に『食味歳時記』という楽しいたべものの本を書いている。 古きよき時代に横浜で育ち、フランスに長い間留学し、食の経験も長く古く、機知に富んだ、楽しい本である。
その中で、おせち料理だけはくそ味噌にやつつけられている。 「重箱に詰まっているものには、まったく手が出ない」 「3献肴、口取り、甘煮の類は、1見しただけで、食欲を失う。
3日間出されるのだから、新年を呪う気分にもなる」 「4日の朝に、平常食に帰ると、ホ″とした感じになる。 やっと厄除をした気持になる」 「いつの頃からか、私の家では、3ケ日の午食だけは、パン食にすることにした。
酒はブド酒を飲み、コルドミトの類を食べ、食後にコーヒーということにする」「正月料理は元日1日だけのものにしたら、どんなものか」「何も3日続けて、まずいものを食う義理はない」 というふうに、おせち料理はさんざんだ。 明治生まれの人のことばにしてはちょっと意外な気もする、今の日本人の気持を代弁しているといっていいだろう。
最近は大味噌かになるとパンよく売れるという。 たしかにタミナル近くのちょっと名の通ったパン屋の前には必ず長い行列できている。
皮のかたい、いわゆるパンの中には、焼いてから8時間以内に食べることを原則とするパンもあるのだ。そんなことはいっていられないらしく、みんなたくさん買い込んで抱えて帰っていく。 獅子文6式の3日は、どうやら珍しいものではなくなってしまったらしい。
冬休み中いなかに帰っていた子供、休み終わって大阪に帰るなり、「サンドイッチ食べたい」といい出し、あり合わせのものをパンにはさんで与えたら、「こんなうまいもん、知らんわ」といってがつがつ食べた、という話、新聞の主婦の随筆欄にのっていた。

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